2010年7月26日月曜日

Notation of Rotating Earth (2)

前回のエントリーからだいぶ日が経ってしましました(別に忙しかったわけじゃないけど。。。)


そういえば、ちょうど一週間前にNHK教育のデジスタで僕の作品「Notation of Rotating Earth」が紹介されて、番組をご覧になった方がツイッターにコメントが寄せられていてとても面白かったです。ご覧になっていただきありがとうございます!この作品は映像インスタレーションなので、地上波にあのような形で紹介されるのに結構不安を感じてたのですが、思った以上に反響があって素直に嬉しい限り(小栗旬にも感動を与えたしね!)




んで、今日はその作品のテクニカルな話でもしようと思います。
番組内でも作品の技術的な概要は説明されてましたが、あれだけでは色々と「面倒な処理の仕方」や「重要なポイント」は伝わりにくかったと思います。

まず最初にパノラマのくだりを説明すると、パノラマ写真の制作は三脚にカメラを乗せて複数撮影し、それをコンピューターでレタッチする、、、と言うとなんだか簡単に出来そうに聞こえてしまいます。でも実際は憶える事や必要な技術が多く、そう簡単に習得出来ません。


とりあえず必要なポイントを抑えると。。。

  • 雲台を乗せた三脚を水平に保つ(これが上手くいかないとパノラマのレタッチが結合しません
  • カメラを固定し撮影設定を「マニュアル(M)」にしてカメラの露出の設定を一定に保つ。
  • ホワイトバランスをオート以外に設定する(オートにすると撮影した角度によって色が変わってしまう
  • 広角レンズのフォーカスを無限円にする(フォーカスが一部の箇所になるとレタッチが結合しない)
  • 被写体がなるべく遠くにある所を撮影ポイントにする(広角レンズだと近くにある被写体が歪みやすい)

よりカメラの構造やパノラマに必要な技術を知りたいのであれば、このページが詳細かつ分かり易く説明しています。普段、カメラを使わない人はマニュアル設定や露出の仕組みにだいぶ戸惑うと思います。僕も最初はパノラマがこんなに難しいものだとは思ってはなかったのですが、練習を積み重ねればだいぶ楽に作れるようになります。ちなみに360°のパノラマを作るためには、等間隔に18枚以上撮影する必要があり、素材が少ないと結合が上手くいかないので、三脚と雲台の付け根に等間隔に目印になるようなシールを付けておくと、分かり易いです。


撮影が終わればそれをパノラマメーカーというソフトで結合。Photoshop CS4以降でも近い機能があるんだけど、コッチの方がキレイかつパフォーマンスが優れているので体験版(2週間だけ使いたい放題)を使用。レタッチの設定に360°パノラマ用のアイコンがあるので、それをポチっと押せばあとはコンピューターが勝手にレタッチしてくれます。



それをAfter Effectsに読み込ませて正方形のコンポジットに以下のように変形させる。

このコンポをさらに別のコンポに入れて極座標というフィルターで加工してゆきます。



上記のような設定にしたら。。。


ご覧の通り丸い形に変形しました。


それを16:9のコンポジットに入れます。

しかしこのままだと画面上部に黒いスキマが出来てしまうのでコレを馴染ませるために「新規レイヤー→平面」を作成し、それに「四色グラデーション」というエフェクトをかけます。



このフィルターは四つのアンカーポイントからそれぞれ指定した色がグラデーションがかかるようになっており、これを利用して画面に出た不自然な黒を消して写真の素材と馴染ませます。


ご覧の通り、黒がキレイに無くなり写真の素材と馴染みました。


シンプルなビジュアルですが、細かい修正が必要な作品だったためか簡単そうに作れるんじゃないかと僕も最初は思いながら作ってました(実際は結構面倒くさい。。。)同心円にパノラマを加工した作品は他にも色んなアプローチで使われている事が結構あるので、みなさんも色々漁ってみては如何でしょうか?


というわけで今回のエントリーはこのへんで。

2010年7月8日木曜日

Notation of Rotating Earth (1)

今回のテーマは僕が多摩美の学部時代に卒業制作として発表した映像インスタレーション作品「Notation of Rotating Earth」を紹介します。実はこの作品は7/14にNHKのデジスタという30分弱の番組に紹介されるようです。ただ、とても短い時間で僕の作品を紹介すると、どうしても表層的なところ(手法や簡単にアイディアの元を話すぐらい)しかクローズアップされず誤解が生じるものがあると思い、ココで詳細を書こうと思います。




この作品を制作したキッカケなんですが、もともと僕はミシャル・ゴンドリーや辻川幸一郎といった映像と音楽がシンクしたMVを作るのが好きで、それがこうじて「視覚と聴覚の関係性」をテーマに掲げてオリジナル作品を発表するようになりました。学部三年の時までは「音楽から映像を考える」事を軸に制作したんですが、卒制は逆に「映像から音楽」を考える作品を作りたいと思いつき、その時に最初に発想したアイディアが「楽譜」だったのです。そして楽譜をテーマに色々な資料を漁っていくにつれ、現代音楽や図形楽譜といった文脈を知りました。



作品のテーマなんですが、上記に書いた通り「画像から音楽を作曲し、新しい音楽を創造する試みの映像作品」。例えば五線譜というのはクラシック音楽をピアノによって作曲し、それを記録するための楽譜です。ですが図形楽譜というのは、そういった古典的な作曲法から脱却し新しい音楽を創造するための手段として発明されたものなんです。




例えば上の画像の武満徹と杉浦康平の「コロナ」などはバイオリンで演奏するために作られた図形楽譜です。バイオリンなどの弦楽器はピアノと違ってピッチを自在に変える事が出来る、つまり12音階の枠にとらわれずに音が出せますよね。なので記譜も有機的なインクの滲みで表現し、バイオリン本来の特性を活かせるような楽譜を創造したと言えます。



僕の作品の記譜方ですが、都市の光を音符として考えて曲をおこします。音楽というのはリズムがあって成立するものだと僕は考えています。そのリズムを俯瞰して考えると、それは24時間(一日)のサイクル、それを俯瞰すると一週間、またさらに俯瞰すると一年、、、つまり地球や太陽といった天体の生むリズムによって僕らの秩序(リズム)のある生活は作られている。それを考えた時に天体の運動によって作られるリズムで音楽が出来たら面白いんじゃないかと考えるようになりました。そして時間帯によって変化するもので音楽を感じさせるものを想像したときに都市の光なら一日のサイクルの中で変化もあり、ロケーションによっていろんな音楽が出来ると思い、都市の光で楽譜を作ろうと決心しました。

ですがカメラに映ったヒカリなら何でも良いのかというと、ちゃんと音符として捉えるものとそうでないものを選別するようにしてます。

これは360°撮影したパノラマをデジタル加工して丸い形にしてます。この写真の中心に等間隔に放射線を引いて、その線に当たったものだけをトレースします。

上記の画像はそのトレースした光だけを抽出したものです。形によってどんな音を発するかを僕自身が決めて作曲します。

音程の指定ですが、地平線に接触する光を「ラ」の音をして、それを基準に五線譜同様に光の高低によって音楽が演奏者の任意によって決定します。なぜ「ラ」の音かというと音楽のコードでラをAと呼びますよね。12音階の一番最初をラと考えクラシックのコンサートでピッチを合わせる時もこのラの音を基準に考えるので、地平線に近い音はラにしようと決めました。また音符の形によって、演奏する楽器や強さも変わっていきます。



というわけで、作品の概要的な事はこのへんにしておき、次のエントリーではテクニカルな話が出来ればなぁと思っています。

2010年7月3日土曜日

HIFANA -電話 / Damn What Ringtone- (2)

というわけで前回のエントリーの続きです。
今回は映像のシナリオ演出よりも、具体的に制作のテクニカルな部分を解説します。


トリートメントやストーリーボードなどをある程度の形にしたら、HIFANAやW+KがOKサインが出たので早速制作。映像のコンセプトはリピート再生される着メロのイメージを「図形が反復された世界」で表現することでした。ですが、当初頂いた音源と制作の過程においてブラッシュアップされた音源がほとんど別曲と思える程アレンジが加わっていた(爆)ので、上記のコンセプトでは音楽に対する映像のアイデンティティが弱いと感じるようになりました。そこで音源の中に含まれてる「携帯電話のバイブ音」がこの曲の個性と判断した私は、ソレを視覚的に表す手段としてカラーノイズのような効果を思いつきました。


上の画像はそれぞれ色の異なる素材で制作したコンポジットです。この三つのコンポジットを一つのコンポにまとめて、レイヤーの描画設定を「乗算」させることで。。。
このような白黒のオブジェクトの際にカラーノイズが現れてる様な効果を出すことに成功しました。(ちなみに実際のビデオにはノイズフィルターやグローフィルターを加えてよりリアルな演出を加えている)





あとよく見るとわかると思うんですが、アニメの世界が所々空間の広がる演出が出来てると思います。これはカメラレイヤー+3Dレイヤーを組み合わせて三次元的な空間を再現しました。これはHIFANAに「視覚的な錯覚やトリックを映像の演出に加えて欲しい」という要望があったのです。

上の画像は別アングルで見たコンポ。実は3DCGソフトで素材は作らず、イラレのデータで人力ポリゴンを作り、立体的な背景を演出しました。なんでわざわざこんな回りくどい事をしたかというと、単に僕が3DCGが出来ないだけなのですが。。。(笑




3Dレイヤーを駆使した別のシーン。




あと今回の制作で一番大変だったのがCOWMANの腕の動き。有機的になめらかに動いていますが、これは一コマずつ素材を作らず一枚のイラレのデータにペジェワープというディストーション系のエフェクトをかけ、それを腕のような形に変形、動きを補完しました。もちろん手や胴体は別の素材なので、腕の付け根とソレらのパーツが上手く馴染むのにはかなり時間をかけたと思います。



という感じに、上記のテクニック以外にも細々としたフィルターやキーフレーム補完を駆使して一本のアニメを作ってきました。シンプルなビジュアルに見えて実は細かい工夫がなされているのです。



クライアントワークを通じて色んな事を学んだ訳ですが、一番痛感したのが「みんなで面白いものを作っていく」という目標を共有するW+Kの姿勢。なのでアートディレクターのシェーン氏を始め多くのスタッフの方が制作過程において、いろんなアイディアやアドバイスをして頂きました。僕は今回の仕事をする前までは他者の意見を反映させすぎる事に少し抵抗がありました。それは作品に自分ではない他人の血が混じる様なクリエイティビティの濃さに影響されると思っていたから。。。でもそれは僕の勝手な思い込みであって、彼らは僕の考えてる理想をより良い形にするために背中を後押ししていたんだと思います。


という感じでHIFANAのMV制作の裏話はこのへんで。
今後の作品の制作過程などを描いてこうと思います。

2010年7月1日木曜日

HIFANA -電話 / Damn What Ringtone- (1)

というわけで、僕のブログの第一回目のテーマは最近お仕事をさせていただいたHIFANAのMVについて色々ご紹介させていただきます。





これは僕が多摩美の学部四年の時に制作したものです。
今から一年ほどまえにvimeoにW+K TOKYOのアートディレクターであるシェーン氏からメールを頂いて「一緒に仕事をしたい」的なメッセージを頂きました。当時の僕は社交辞令的なモノかと思ってたんですが、その一年度(つまり今年の年明け)に再度シェーンさんから連絡が来て「短いビデオを作って欲しい」と正式な依頼が来ました。僕の音と映像をシンクさせた作品スタイルがHIFANAのビデオにピッタシだと思っていたそうで、プロディーサーさんも「すぐに彼を連れて来てくれ!」と頼まれたそうです(笑)


んで、制作の流れはザッとこんな感じ


  • 事務所で顔合わせ→プロジェクトの概要とデモ音源を頂く
  • HIFANAから「職場に自分の携帯が鳴り響くけど見つからず、やっと見つけたら履歴に彼女から着信があった(ココでビデオが終わる)」というストーリーの骨組みを頂く
  • 曲に対してイメージに合いそうなスケッチや資料をまとめた「トリートメント」を提出
  • それを土台に本格的なデザインボード詰め
  • W+KのOKが出たら本格的に制作開始
  • 曲のブラッシュアップに合わせて演出も微調整
  • ビデオの完成→納品♡

ザックリ説明するとこんな感じ。
クライアントワークは今回のビデオが初めてだったので、色々勉強になることが多く、特に思ったのが「他人と完成のビジョンを共有する」という点。学部のころはほとんど自主制作しかしなかったので、制作の過程において「他人とモノごとを共有する」事は皆無でした。そのせいか絵コンテらしいものもほとんど描かなかったし自分がわかってればソレでOK、というのがデフォルトだった今回は細かい演出にまでW+Kのチェックが入り、アウトプット自体はシンプルなビジュアルですが、カット割やキャラクターの表情、フォントのアイディアなど様々なところにアートディレクターの意見が反映されてます。



トリートメントでのキャラクターのスケッチ。
これはCOWMANというHIFANAがすでにデザインしたキャラクター(画像上)をぼくがアレンジしたものです。会社という舞台設定なのでスーツ姿。またアニメーションの作風も昔のアメリカのカートゥーンアニメやサムライジョーのようなビジュアルにしたかったので、骨格を感じさせないシンプルなデザインになりました。



んでこちらは作中に出る会社の同僚。
イメージの元ネタはマトリックスのエージェントスミスやベルヴィル・ランデブーに出てくるマフィアの手下だったりします。





コレが最初の絵コンテ。
この時は最初のデモ音源を聞きながらストーリーを書き起こしてきました。





これはビジュアルの方向性。この段階で明度分割がハッキリしたモノトーンの世界が固まっていて、なおかつ同じオブジェクトが大量にある幾何学的な空間になりました。なぜ同じオブジェクトが大量にあるのかというと、曲が一定のフレーズをひたすら繰り返す「着メロ」のような音楽だったからで、その時「反復」や「幾何学」というキーワードが頭に浮かび、それを視覚化しました。


この段階で二週間近くかけてプロジェクトを進行させました。ぼくがディレクター初挑戦ということもあってか(どうかは分からないけど)W+Kの皆さんが時間をかけ丁寧にプロジェクトを進行させてくれたので、僕の安心してお仕事が出来ました。


次のエントリーでは、本格的な制作のお話とかしようと思います。